大変過ぎる接着

KEENのサイドゴアブーツ

革の表情が両足で違う、KEENのヌバックサイドゴアブーツ。ヌバックの登山靴などは、オイルや蝋で防水加工をすることがよくあります。ヌバックは起毛している革なので、通常の革よりも蝋を染み込みやすく、それが防水につながるのでしょう。
ご依頼者様は右足だけ防水加工をしたかったのか、間違えて靴クリームを塗ってしまったか、そもそも何故右足だけ…という疑問点はあります(聞いておけば良かったです)が、今回の修理はクリーニングと接着です。

予定されていた接着
予期していなかった接着

最初のお見積もりでは、ブーツに接する部分の、カップソールの剥がれを接着予定でした。ですが、届いて確認してみたところ、カップソール下のアウトソールまで剥がれています…。
クリーニングをする際に、水分で接着剤が緩み、アウトソールが剥がれる可能性があります。なので、アウトソールも接着をお勧めいたしました。

右足の蝋はクリーニングでは落ちませんでした

クリーニングをしたところ、やはりアウトソールがどんどん剥がれていきます。これがもし外出中に雨に降られ、ソールまで浸水しきっていたとしたら、家に帰る頃にはソールをどこかに置いてしまっていたかもしれません。そうならなくて良かった…と思うばかりです。

左から、ブーツ本体、カップソール、アウトソール

カップソールはスポンジ素材で衝撃を和らぎ柔らかい履き心地に、アウトソールはゴム素材で耐久性を持たせグリップを効かせる。とても合理的だなと思いますが、中々に靴修理屋泣かせであります。

大変過ぎた荒らし作業

ブーツ本体
カップソール
アウトソール

接着において一番重要である下処理をします。接着の手順としては、
①シンナーなどを使い元々付いていた接着剤を取る
②接着剤の付きを良くするために荒らす
③接着剤の効力を高めるプライマーを塗る
④接着材を塗る
⑤接着
となるのですが、下処理にあたる①、②がどれだけ丁寧に行えたが、接着の良し悪しを決めます。接着は下処理が8割と言っても良いでしょう。時間がかかり、とにかく大変です…。この下処理を行わず、いきなり接着剤を塗る修理屋さんも見たことありますが、必ず剥がれます。

画像は、②の荒らす工程になります。ブーツ本体はそこまでではないんですが、カップソールとアウトソールが複雑な形をしており、フィニッシャー(靴底を削る機械)のペーパーが入りません。なので、リューターを使い、荒らしました。
リューターは非常に便利な道具ですが、荒らせる範囲が小さいので、ひたすらに時間がかかります。カップソールに限っては両面ある為、かかった時間を考えたくもありません…。

接着も接着で緊張する作業です。貼り付ける位置がずれてしまうと、また下処理からやり直しですので…。
今回の接着は今までやった中でも、特に大変でした。

靴修理の中でも、接着は軽く見られている印象があります。靴用の接着剤を流し込めば、簡単にくっつくと思っている方も結構いらっしゃるのですが、その裏では非常に地道に、それは地道に作業しています。
靴修理の中で何が難しいかと聞かれたら、接着と即答できるくらいには難しいです。

どうか、剥がれないことを願うばかりです。この度はありがとうございました!

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