記念日に合わせて靴修理(中底交換・リウェルト編)

中底まで外れたCrockett&Jones

踵をまとめている釘を外します

前回からの続きです。
クリーニングをして乾いたら中底を外します。踵の釘の本数はどんな靴でも結構多いので、簡単にははずれることはありません。

カウンターライニング

別の修理屋さんで修理されていたカウンターライニング補修の接着が剥がれていたので、ここはしっかりと接着して戻します。カウンターライニング補修の場合、下側の革は中底の上に乗せることが大半ですが、今回は中底を外したので中底の下に入れ込むことができます(修理屋さん以外は気にしてないところだと思いますが…)。

外れました

中底が外れました。中底の形は靴の見た目より細くスッキリしていて、それが自分の靴であってもよく足が入るなぁと思ってしまうことがあります。

3㎜の中底用レザー

外した中底の型取りをして、中底用のレザーを切り出します。履きこまれた中底は形が歪んでいることが殆どの為、全く同じ大きさに型紙を作るのが中々大変で、この辺りが中底交換で一番難しいんじゃないかな~と思います。

水に浸します
木型に巻き付けます

形が定まったら水にしっかりと浸して、乾かないうちに木型に巻き付けて整形します。
中底交換ではこれが一番大切で、木型無しでフラットな革のまま交換してしまうと、明らかにおかしな履き心地・靴の形になってしまいます。
クロケット&ジョーンズと同じ木型はありませんが、なるべく踵の高さなどが似たものを使用して整形します。

中底が乾いたら必要な情報を書き込んでいきます。革靴によって中底の仕様や設計が違う為、同じになるように下準備します。

リブテープ

リブテープと呼ばれる、グッドイヤーウェルト製法で一番特徴的なパーツを貼ります。このテープがあることですくい縫い・ウェルティングという作業が可能となります。
ハンドソーンウェルト製法だと、中底を加工してリブテープのような土手を作ります。手間がかかるので高級な革靴などにしかあまり見られません。

前の中底と同じように曲がりやすくする溝も掘ります。効果があれば良いのですが…。

中底が完成しました。
元々の中底の踵の部分は厚紙(グレーの部分)が貼られているのですが、耐久度に少し疑問がある為、新しい中底の方には同じ厚みくらいの革を貼りました。

中底を元に戻す前にライニングの擦れを補修します。このままだとアッパーまで穴が開いてしまう可能性があるので、中底が外れた一番直しやすい状態で直します。

基本的には革を当てて、擦れを補修します。元の木型があればライニングの交換も出来るのですが、基本的には無いので交換は難しいです(形が近い木型があれば可能な場合もあります)。
当てる革はライニング用に作られた同じような革を使います。接着のみでの固定となる為、足に当たって剥がれないように端は0mmに近くなるまで薄くします

貼るとこのようになります。今回の革当て補修はお子様のご出産祝いということでサービスさせて頂きました!

靴を太めの糸で仮固定していきます。
靴とリブテープを留めていたステープルは無くなってしまっているので、アッパーが自由に動いてしまいます。それを防ぐためにざっくりと仮固定して、次の作業を楽にします。

糸で仮固定が出来たら、踵の釘を戻していきます。
ここまでくるとアッパーがしっかりと固定されるので、靴本来の形が戻ります。
靴の内側からみると釘がしっかりとカシメられて固定されています。釘の長さを調整して、先端はしっかりと曲がっているので足の裏に刺さることはありません。
靴作りや靴修理では釘を沢山使う為、靴の中にある釘の量で驚かれる方もいらっしゃいます。

ウェルトと呼ばれる細い革を縫い付けていきます(リウェルト)。
革に穴を開ける際になるべく横から開けるようにすると、ウェルトが平行に起き、靴底を付けやすくなります。この感覚をつかむまでが中々に難しかったのですが、沢山縫っているうちに身に着けることが出来ました。リウェルトが得意、とそろそろ言えそうです。

糸はポリエステルの太い糸を2本で取り、松脂が塗ってあります。
昔は麻糸を使うのが主流で自分も麻糸で縫っていた時期があったのですが、修理に来た靴を分解してみると、麻糸だと耐久度が少しよろしくない感じがしたのでポリエステルにしています。
縫う際に普通に縫うのだけでは駄目で、糸を絡ませる、いわゆる「あやをかける」動作がリウェルトでは必要となります。あやをかけることで糸が緩まなく、しっかりと固定が出来ます。

こうしてリウェルトが完了しました。先ほど書いた革を横から縫う感覚でやらないと、ウェルトが起きてしまい画像のような形にはなりません。
リウェルトしたこの状態がとても好きです。

次回は靴底を付けて完成となります。

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